私が技術翻訳に目覚めたのは、地方大学の工学部の学生だった時に、中学の時の英語のF先生の紹介で、小型送受信機のパンフレットを和文英訳したのがきっかけでした。当時、英語は得意というわけではなかったのですが、こういう仕事なら将来自分でも続けてゆけそうだと思いました。
その後、しばらくしてから、英和・和英の技術翻訳の勉強を始めて、仕事を探して、翻訳業界に入ってゆきました。この時、私は、文学や社会・法律・経済系の翻訳者になるつもりは最初からなく、また、それは不可能であるとも思っていたので、最初から技術翻訳者になる道を選んだのです。
技術翻訳の仕事は会社や研究所などから翻訳会社を通して受注し、出来上がったものを翻訳会社に納品する仕事です。文学関係の翻訳では出版社から仕事を受注することが多いようですが、技術翻訳ではそういう事はほとんどありません。また、翻訳者として一般社会に名前が知られることもありません。
私は就職はせずに出来高払いの仕事を続けていましたので、面倒なしがらみに拘束されることなかった代わりに、収入はかなり不安定でした。これから技術翻訳を志す若い方には、私としては、フリー翻訳者として仕事を続けるのではなく、翻訳ができる会社に就職されることをお勧めいたします。
技術翻訳の仕事を始めるには、電話帳や新聞広告でいくつかの翻訳会社を探し、仕事を探していることを伝えると、一般に「トライアル」という短い翻訳を行う翻訳能力試験を受けることができます。それに合格すれば、仕事を受注できるのですが、最初の一年間ほどは、私はこのトライアルで躓くことが多く、なかなか本格的に仕事に入れませんでした。当時、ベテランの翻訳家T氏に自作の翻訳を見てもらいましたが、全面的に赤ペンで修正を入れられ、ショックを受けたこともありました。とにかく、実力がついて継続的に仕事が入るようになるまでは、かなり大変でした。
(2.に続く)